「華氏911」は来年でなく今観ておく映画

深夜TVで、ピーター・バラカン氏が司会を務める「CBSドキュメント」という番組があります。長年この番組を観ていると(最近は観てないケド)「アメリカって病んでるよなぁ」と確実に刷り込まれちゃいます。「確実に数年後の日本はこうなっていくんだろうなぁ」と思ってた通りに日本もおかしくなってきてますが、アメリカさんはさらにブッちぎりでおかしくなってるし。

ITやインターネットで世界を先導しているアメリカなのに、あの大統領選での開票トラブルには「何やってんの?どうしちゃったの?」って思ったもんです。結局大統領となったブッシュをニュースで観たときは、「政治家というより企業の重役みたいなオーラを持った人」という印象だったっけ。

映画「華氏911」は、あの大統領選は結局何だったの?というところからはじまり、9月11日に起こったことを、真っ黒な画面に音だけでみせています。
マイケル・ムーアの声が聞こえてきそうです(実際のナレーションではないよ)
「見せなくてもみんな何が起きたか分かってるね。じゃあこれから僕が、みんなの知らなかったことを見せてあげるよ。」

マイケル・ムーア節と言われる、持論をハイテンションで畳みかける展開に、「鵜呑みにするとヤバイかも」という警戒リミッターが働きだしちゃう人も多いでしょうが、僕は好きです、彼のノリ。ヒップホップなカルチャーやノリに近いからかもしれないケド。
鵜呑みにしようがしまいが、日本のメディアで目や耳にした出来事を扱っていて、その度わきおこる「なんでアメリカの国民はそれを許しちゃえるわけ?」という疑問に、直球RESをつけてくれたかのような痛快さを感じました。

だって、やってることはワケわかんないゴリ押しなのに、言論統制やメディア規制で、アメリカからそんな声が聞こえて来なかったじゃないですか。急速に保守的な人格に塗り替えられたように見えた、海のむこうの大国。(あのマドンナでさえ…抑えていたんだと思う)
「じゃあ俺が言うしかないってか?」と立ち上がったムーアが、映画という手段でケンカを売ってかかった作品、それが「華氏911」。

ケンカを売られたのは、ブッシュ大統領。
なんでブッシュかといえば、9.11とその後のアメリカを描こうと思ったら、他の誰でもない、ブッシュを切り口にするのが分かりやすく語るのに最適だったからでしょう。
切り口=標的と定めたら、笑いの味付けを忘れずにつっこみしまくるムーア。そこに普通のドキュメンタリー手法で、貧困層の若者が軍に入るしかない状況をリミックスさせ、所詮アメリカの正義っていうのは裕福層の金と石油の利権を守ることで、国民全部を守るためじゃないんだよ、とおびただしい量の映像フッテージのリミックスで教えてくれます。(日本では知られたことでも、アメリカでは報じられていなかったことが多いのでしょう)

そう、この「華氏911」は、「ボーリング・フォー・コロンバイン」のように、ムーア氏自身が突撃取材するシーンがほとんどなく、まるで彼の講演をサポートする資料映像を観ているような映像作品です。笑える場面はいっぱいありますが、ムーア氏がナレーションに回ったことで、割と冷静にケンカ売ってます(笑)
そのせいで、映画的な面白さは「ボーリング・フォー・コロンバイン」の方に軍配があがるんだけど、見終わったあと何かしら議論なり意見を言いたくなるのは、「華氏911」の方が上かもしれません。
ムーア氏に企みがあるとすれば、事実と推測をまぜっこすることで、その割合のしきい値を観た人それぞれに設定させること、そのための議論や意見を言うきっかけを与えることなんじゃないかと感じたし。長文読解問題の「長文」部分って感じ。

映画の中で一番印象に残ったシーン。それは、シンプルなインタビューでした。イラク戦線へ再招集を拒否することで投獄されることになっても、あんな行為をもう2度と自分に許したくない、とまっすぐカメラに向かって語る黒人の伍長のシーン。
彼の中に芽生えた正義感こそ、ハリウッド映画が描き続けてきた正義ってものじゃなかったっけ?
殺戮する時にピッタリのロックを笑顔でしゃべる米軍兵と、自分の行為を許せなかった黒人伍長。イラク戦争を報じるニュースの影には、こういう人間がいることを映像で見せたってだけでも、この作品の価値はあるってもの。

ムーア本人に対する好き嫌いは別にして、またタランティーノがカンヌで賞を与えたというお墨付きだけを根拠にするのも別にして、観たあと誰かと話したくなる映画として、"今"観ておくべきだと思いました。"来年"だと味が変わっちゃう可能性があるし(^^;

@TVからの画像が多いから、映画を観ている感じがしないという感想を持つ人のキモチも分かります。でも、SFXで役者が安全な状態でハラハラドキドキな画面を作り出すアメリカ映画よりも、緊張感ある映画体験でした。
〈映画の可能性〉に評価の重点を置くカンヌ映画祭で賞を得たことは、ジャンルの定義や技術面を飛び越えて、あえて映画という手段を選んだ「吠えメール」に、今でしか与えられない評価をしたんだと思いますよ。今度タランティーノが、自作でムーア調表現を取り入れたりすると、政治的でないパルムドールの価値が再認識されるだろうね。

@この作品が、大統領選へどの程度影響を与えるか…。トホホな存在であっても、ブッシュでないと困る企業もいっぱいあるんだろうなぁ…。それにブッシュ以外の誰か、の選択肢が1つしかないのも「病の原因」かも。

(8/22 ヴァージンシネマズ六本木)

◆「華氏911」に関する批評では、ももちき☆さんの『エイガ・デ・コルテ』の文章がサイコーでした。3日に渡って展開するこの映画の見方をぜひものでチェック!
http://plaza.rakuten.co.jp/thoughts/diary/200408230000/
http://plaza.rakuten.co.jp/thoughts/diary/200408240000/
http://plaza.rakuten.co.jp/thoughts/diary/200408250000/

マイケル・ムーア日本語版オフィシャルサイト
→「マイケルからのメッセージ」がおもしろい

「華氏911」オフィシャルサイト(日本ヘラルド)
→予告編やポスターで使用されていた、手書きレタリングで作った「華氏911」のロゴが気に入ったのに、このサイトやパンフでは使用されてないのね。

「華氏911」とイスラエル:「華氏911」はブッシュ批判に終始しており、ネオコンとイスラエルについて触れず。「謀略をやっているのはムーアの方ではないか」

→僕が思うに、映画として1人でも多くの人の目に触れることと、映画作家のスタイルから、まずエンターテイメントとして成立するものを考えたんだと思うよ。アートなドキュメンタリーでなく、下世話ネタしか興味ない人まで引き寄せるには(^^; だから、的を1つに絞ってわかりやすくしたというのが本音だろうと思うんだけど。
何を取り上げて、何を取り上げていないかを含め、見終わったあと、論議が起こること、それがこの映画の企みだと思うです。

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  by tzucca | 2004-08-30 23:18 | → MOVIE

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