映画「ユナイテッド93」

a0028078_053133.jpg歴史は、9.11を境にして、それ以前、以降と分けて語られるようになった。
環境映像のように固定カメラで映し出された黒煙をあげるワールド・トレード・センター。そこに2機目の飛行機がつっこむ瞬間を、僕はテレビでリアルタイムに観ていた。何が起こったのか?そして、繰り返されるすでに知ってる情報が更新されるのを、固唾をのんで見つめていた。
そして崩壊をはじめたワールド・トレード・センターを観て、誰もが思ったはず。「まるでハリウッド映画のようだ」と。

すでに何本かのドキュメンタリーがテレビ放映や公開されていますが、ハリウッドが真正面から9.11を描いた作品が続けて公開されます。このポール・グリーングラス監督の「ユナイテッド93」、そしてオリバー・ストーン監督の「ワールド・トレード・センター」。
9.11以降アメリカ政府がとった行動から、アメリカの愛国心に訴える英雄を讃える映画では?と思ってしまうのは、僕だけではないはず。

僕が「ユナイテッド93」を短い夏期休暇中に観たい1本に選んだ理由。
仕事中に時々聞いているJ-waveの番組でこの作品が紹介された時「とにかく描写がフラットであることに驚いた」というコメントに心が動かされたから。そして未見ではあるんだけど、北アイルランドの公民権デモを描いて高い評価を受けた「ブラディ・サンデー」(U2にもこの事件を題材にした曲があるよね)を作ったポール・グリーングラス監督作品であることを知ったから。

この作品は、9.11でハイジャックされた4機のうち、目標に達することなく墜落したユナイテッド93便で、なにが起こったのかを再現するドキュメント・ドラマです。生存者が誰もいないので、93便の中で起こったことを再現しようにも真実は分かりません。乗客が機内電話や携帯で家族に語った内容、管制センターで追っていた情報から、制作者は<真実を描くことの意義>なくして鎮魂の礎になり得ないという意図で、ハリウッド映画的なドラマティックな演出を徹底的に排除して現場を再現しています。

ユナイテッド93便は、乗客がテロリストの企てを阻止した勇気が讃えられて、その時のかけ声「レッツ・ロール」がプロパガンダとして利用されてきました。ハリウッド映画であるなら、高揚した音楽とともに決意の表情をした男にカメラがトラックアップして、張りのある声で「レッツ・ロール」が出るだろうことは想像できるのですが、この作品でこのセリフは、バタバタとした状況の中でかき消されてしまうので、よほど注意深く音を聞いていないと分かりません。僕も、観る前にその情報があったから気がついたので、ここに書いておきますよ。
本当に、描写がフラットなんです。

フラットであることは、アルカイダのハイジャック犯の描き方に対しても、乗客や管制センターで働く人と同じ目線でカメラを向けていることにも言えます。9.11以降のアメリカでは、イスラム教徒というだけで、イコール、テロリストと決めつける人が多いとモーガン・スーパーロックの番組で言ってました。犯人に対するここまで冷静な目を保てるというだけでも、この作品が政治や商業的な思惑から離れて制作されたことが分かります。
管制センターに登場する人たちの多くは、当人がかつての自分を演じているのも、彼ら1人1人にとってこの映画に出ることの意義を感じてのことなのでしょう(エンドクレジットで、as himself となっているのが当人出演の人たちです)

慌ただしい管制センターで、レーダーとにらめっこしながら誘導指示を与えるスタッフが、アメリカン11便のコックピットからの音声を聞いて「ん?もしかして?」とハイジャックの可能性を言葉にします。
やがてアメリカン11便がレーダーから消えます。ニューヨーク市の上空で。「どうしたんだ?」
演習のために空のスケジュールを管制センターとやりとりしていた軍のコントロールセンターで、「CNNを観てみろ!」という声で前面パネルに黒煙をあげるワールド・トレード・センターの映像が映し出されます。なにが起こったのか、誰も把握できてないんです。目の前の現実と、全体の出来事がリンクしてこないのです。
彼らもCNNを観ていた、というのがショッキングではありました。もっと詳細な情報が行き交っていたと思っていたのに、事態の把握ができずに情報だけが混乱して、TVを観ていた僕らとたいして変わらない状況だったんだ…と。

そして悲しいのは、1機目がワールド・トレード・センターに突っ込んだ時には、ユナイテッド93便はまだ離陸してなかったこと。出張や旅行などそれぞれの目的で乗り込む、いつもと変わらないフライト風景。異様に緊張した気配で乗り込む数人の犯人たちを除いては。
ここからは、まるで自分が93便に乗っているかのような錯覚に陥る、生々しい映像が続きます。
まさか!という思いと何が起こってるか分からない不安。やがて、機内電話で家族と会話していた乗客から、外で何が起こっているかが機内に伝わってきます。ただのハイジャックじゃない。自分たちは生きて帰れない。みな、電話で家族にメッセージを伝えます。愛していたと。みな口々に、愛していたと。カメラは客観的な目線でなく、そこに居合わせている人の目線で映像を拾っていきます。
僕らは、彼らが何をしようとも、待ち受けている運命を、結末を知っています。
未来を見てしまう能力があるとは、こういうことなのか、と思ってしまいました。それで、運命を変えられるのならいいのに、そうはならない。辛くなってきます。せめて、最後まで彼らがしたことを見届けたいというキモチになってきます。

軍の上層部がユナイテッド93便のハイジャックを知ったのは、墜落してから4分後のこと。
(他、いくつかの報告が文字情報でエンドロール前に現れます。これらの真偽については、コメントがいくつか寄せられているので、そちらもどうぞ)

これはもう、映画の感想じゃないですね。でもこの作品は、映画の完成度やら脚本の見事さや役者のすばらしさを語るシロモノではありません。遺族や関係者の証言などから再現された真実を受け止めてあげる、それが観客の役割なのです。
こういうカタチでこの題材を1本の映画に仕上げた、ポール・グリーングラスという映画作家の力量には目をみはるものがありました。
「ブラディ・サンデー」も観なくては!と思ってきます。

エンドロールが流れる間、ラストシーンの絶望感からくる心臓のドキドキがおさまるのをじっと待っていました。クレジットが流れ終わって、劇場の照明がつくまで間、スクリーンには「ユニバーサル・ジャパンに遊びにきてね!」のユニバーサル映画のお約束画面が映っていました。この違和感たるや!


「ユナイテッド93」 2006.8.14 TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ Screen4

「ユナイテッド93」公式サイト
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  by tzucca | 2006-08-21 00:43 | → MOVIE

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