「ゲド戦記」を観た感想

巨匠・宮崎駿監督を父に持つ宮崎吾朗監督の第一回作品。
宮崎駿監督作品のような極上な映画体験には及ばず、
表現の固さと引きこもった心によって、青くて甘くないバナナのような作品でした。


そりゃね、初監督作品ですから、表現の"固さ"は当然あるだろうし、いきなり極上の映画体験ができちゃったら、実はお父さんが監督した?って思われちゃうだろうし。
ジブリの将来を担う若き才能の誕生を楽しみにはしていたんだけど、しがらみが大きすぎたんだろうなー。美しい画面から、外に向かうパッションやエモーショナルな部分が伝わってこないんだよねぇ。それは、主人公アレンの性格そのままに、引き籠もりの心理状態みたいな演出だったからなんだけど。もし、強いオーラを発散してきたこれまでの宮崎アニメタッチでなかったなら、こんなギャップは感じなかったかもしれない。"宮崎駿"からもっと離れた作り方であれば、自分の殻に閉じこもったリアルさを欠いた心が、1つ1つリアルを肌で感じて取り戻していくデリケートさを表現できたかもしれない。
原作を読んでいない僕だけど、映画としてここはもっと良くなるはずなんじゃないか?と思いながら画面を観てしまうところが多かったんだ。映画自体が引き籠もってるんです、とにかく。

とはいっても、ブランド力のあるジブリ作品。画のクオリティは、さすがです。舞台となる街、自然、動物の描写は、愛おしくなるほどよく描けてた。NHKの深夜によくオンエアしている、世界の歴史ある街や土地をハイビジョンで淡々と紹介している番組を観ているようでした。すなおに「ステキだなぁ」と。
イマドキのアニメにあるような3DCG的構図ではなく、実写的な構図とカット割を意識しているところに好感が持てました。

キャラクターといえば、ハイタカ、クモ、ウサギの3人がいい感じ。
ハイタカは、父親の象徴的存在として、菅原文太の声とあいまって存在感がありましたねー。宮崎駿作品には、こういう父親的存在っていなかったんだよね。これは父を見てきた息子だからこそ描けた部分だと思う。父親的、という言い方をしたのは、それがユングが言うところのシンボルとしての父親に近いなぁと思ったから。実際この作品では、アレンの「影」が登場したり、ユング的な匂いが散りばめられていたし。
そして、生に固執するあまり悪の存在と化してしまう魔法使いクモは、素直にこういうキャラが好きなのと、ラストの崩壊する姿がよかった。ムンクの絵のようなタッチになっちゃったりしてさ。「ハウル」の荒地の魔女のように、終盤で姿形をただの老女に変貌させちゃうのが、ジブリの得意技に加わったみたい。
ウサギは、旧ルパンを思わせるアニメーター大塚康生氏のタッチで、アニメ的に動かしやすいキャラクターでしたね。バランス的にこのキャラにここまで生き生きした役回りが必要だったか?とは思いましたが。

オトナはともなく、主人公となる少年少女のアレンとテルーは弱かったなぁ。
画はキレイなだけじゃ生きてこないんだって、よーく分かりました。宮崎駿氏の作品では、感情や表情をキャラに与える部分で、駿氏が八面六臂に力量を発揮していたんだろうことが、分かってしまった感じです。

いつも沈みこんでるアレンは、ストーリーを前に進める役目を果たせていませんでした。
冒頭で父親の王を殺さねばならなかった理由が、突発的な衝動からだったという罪の薄さは、「死が訪れるからこそ限られた生を精一杯生きる」というメッセージへ映画全体が導いていく足かせになってるんだ。大仰なメッセージの台詞が、すごく薄く感じるの。
父から魔法の剣を奪って逃げたのも、そういう行動をとった理由が希薄。持っていた剣は父を刺すのに使っちゃったので、かわりの護身用武器が必要というとっさの判断からってことなのかなぁ。後半の展開に必要だったから、という構成の必然性のためじゃないよね?
アレンの分離された「影」の存在は、この作品にいくつか登場する"子供が観てわかりにくい部分"の1つ。原作では別のカタチで登場するものをここに持ってきたようですが、ユングに興味を持つような若い映画作家なら、一度はやってみたいモチーフなのは分かるんです。そこをもっと深く描いていたなら、アレンというキャラがもっと生きてきたように感じるのです。「影」に怯えてそこから逃れるホラー的描写だけでなく、なぜ「影」が別に存在しているのかをセリフでなくビジュアルで分からせて欲しかった。

対して、<名を奪って人を支配をする>という「千と千尋の神隠し」でも登場したマインドコントロール部分は、バランスよく描けていたと思う。なぜ?と思うよりも、古来よりそういうものなのだと理解しちゃえばいいんだよね。

映画ではクモを倒すことで物語の結末をつけているけど、冒頭に描かれる「世界の均衡が崩れている」ことの解決には至っていません。それはクモ1人のせいではなく、もっと大きな規模での話。ハイタカが旅している目的はまだ何も手がかりがない。大きな流れの中のほんの一部分であるこの作品に、サブタイトルなしの「ゲド戦記」というタイトルはどうなのだろう?と感じずにはいられませんでした。
原作を読んでいる方、どうなの?


「ゲド戦記」 2006.8.14 TOHO CINEMAS六本木ヒルズ Screen2

スタジオジブリ「ゲド戦記」公式サイト
スタジオジブリ:ゲド戦記・制作日誌
スタジオジブリ:ゲド戦記・監督日誌
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  by tzucca | 2006-08-20 01:12 | → MOVIE

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