映画「ニュースの天才」

ヒューザーの耐震強度偽装問題、虚偽の企業買収情報を公表したとされるライブドア事件、テレビを賑わすニュースに踊る「偽」という文字。なぜ人は偽るのか?いけないことなのは分かっているのに。それはね、人という存在は元々弱いものなんですよ、なーんて達観した答えすらもピントはずれに感じちゃう現実的な波紋。
というわけで。「ニュース」と「偽」つながりで、今回は「ニュースの天才」という映画の紹介。
2004年の年末に公開された、実話を元にした映画です。

a0028078_0521338.jpgアメリカ大統領専用機内に唯一設置されている権威あるニュース雑誌「THE NEW REPUBLIC」。
政治的論評を売りにしていたこの堅い雑誌の中で、最年少編集者24歳のスティーブン(ヘイデン・クリステンセン)は、人が感動したり怖がるものを探し当事者の目線で書く記事によって人気記者となっていった。それでも彼は、安月給でハードワークな仕事ながら、同僚への気配りを忘れず、笑顔を絶やさず、その人柄から編集部内でも厚い信頼を得ていたのだった。

ところが、スティーブンの書いた「ハッカー天国」という記事について、「フォーブス・デジタル」の記者アダムが内容を詳しく調べようとWEB検索をしてみたところ、記事内に登場するソフトウェア企業やハッカーの名前がヒットしてこない。そんなバカなことが…。権威ある一流誌にねつ造記事疑惑が浮上する。

「THE NEW REPUBLIC」では、信頼を得ていた前編集長がクビとなり、新編集長チャックが就任したばかり。はじめは編集長の勤めとして、記事の裏付けをとろうとスティーブンに情報元などを確認したが、やがてスティーブンの態度に信頼性を欠いたものを見出していく。



記事内容の裏付けや弁護士のチェックを厳格に行う一流誌の編集過程で、なぜねつ造された記事が通ってしまったのか。スティーブンの職場での人柄が、チェック機能を甘くしていたのか。
外面(そとづら)がいいスティーブンですが、この局面に対して「自分は悪くない」を連発し、「編集長ならなぜ記者を守ろうとしない」とキレるあたりで、甘ったれの自己愛野郎だというのが露見してきます。一見いいヤツだと思われていた人間から、どうしようもない本性が見えてくる件を、「スター・ウォーズ」でアナキン・スカイウォーカー(ダース・ベイダー)を演じたヘイデン・クリステンセンが好演。さすが、内にあるダークサイドを演じることができた男だけはある!
冷静に真相と向かい合い、「THE NEW REPUBLIC」を守ろうとする編集長チャックを演じた、ピーター・サースガードもすごくいい感じでした。

あきらかな嘘を編集長に見透かされても、ごまかしたり自分以外のせいにするスティーブンを観ていると、情けなくなってきます。でも身近にそういう人間っているもんじゃないですか。そう、あなた自身とかね。僕自身ともいえる。
けれども、僕だったらねつ造記事は書かない。自分の仕事と自分の能力に誇りを持っていたいから。
この映画でも、スティーブンを中心にしながら、他の編集部スタッフの仕事に対する姿勢もしっかり描いています。「権威ある雑誌を作る仕事」にプレッシャーを感じながらも誇りをもっています。業種は違えど、自分の属するWEB制作の現場と近い部分もあって、スタッフ同士や上司と部下のかかわりなど、すごく興味深く観てしまいました。

実際に起きた記事捏造事件の忠実な映画化ですが、事件そのものを映像化するのであれば、TVドラマや報道の再現ドラマの方が、よりリアリティが出たのではないかとも一瞬思いました。なぜ映画にしたのか。TVでやったとしたら、リアリティという錯覚の上に必要以上にドラマ性をプラスしてしまうかもしれないから?スキャンダル性やサスペンス性を強調しちゃうかもしれない?

集中して一気に見せる映画だからこそ、スティーブンのダークサイドを見抜けなかった現場スタッフと同じ気持ちで事件を目にすることができるのでしょう。そして、ねつ造記事を27本も見逃してしまった「THE NEW REPUBLIC」が抱えた傷も。そこで働くスタッフや編集長をもきちんと描くことで、ラストで彼らが示したアクションに説得力が出るわけだから。
母校のクラスで講演するスティーブンこそ、この男の薄っぺらなダークサイドだったことも。

野心があっても悪気がない。
プレッシャーを受けつつも、ショートカットで成功することをまず考える。
ねつ造する想像力はあっても、発覚した時のダメージを想像しきれない。
そうさせたのは外部の力であって、自分が悪いわけでは決してない。
タイトルは「ニュースの天才」でも、彼は「天才」ではありませんでした。

「ニュースの天才」
2003年アメリカ映画・94分
製作総指揮の一人にトム・クルーズ。

「THE NEW REPUBLIC」誌の公式サイト

◆スティーブンの記事「ハッカー天国」の内容を検証し、事実と異なることを突き止めた「フォーブズ・デジタル」のアダム記者は、その後「HOT WIRED」のライターをしているようです(いかにもですね)。その「HOT WIRED」に、アダム氏が「ニュースの天才」の内容に触れた記事がありました。
「メディア検証コラム:増大する報道不信、変わらぬ影響力」(2004.6.30)
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  by tzucca | 2006-01-23 00:49 | → MOVIE

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