映画「山の郵便配達」

a0028078_132081.jpg土曜の深夜にフジテレビでオンエアされているアニメ「蟲師」を観たことある?
原作のファンは多いけど、アニメ版「蟲師」も素晴らしい出来ですよ。
静かで、しっとりとした展開。美しい画面。山や生い茂る木々、湖や海、まだ人が自然とともに生きていた頃の話。村落を渡り歩く蟲師・ギンコが巡り会う人々との情緒あるエピソードが、なんともいいんだ、溶きほぐされるんだ。
ということで。大きな木箱を背負って山道を歩くギンコつながりで、映画「山の郵便配達」でございます。

いい映画です、これは。静かな静かな映画なんですけど、なにか大きなものをもらったような気分になりました。いつものように、演出や構成がどうのう言う必要はありません。ただ画面に写っているものを、そのまま受け入れればいいんです。

舞台は、1980年代の初め、中国湖南省西部の山岳地帯。
山里に郵便物を集配していた男が、年老いて足を痛め、その仕事を息子に引き継ぐことになりました。
郵便物の入った大きなリュックを背負い、3日間で120キロ近い山道を歩きつづける仕事。

40キロ歩くと天車嶺、それから望風坑、
次の九半龍で1泊、翌朝は寒婆拗へ
揺掌山を越え大月嶺まで40キロ
3日目は一気に山を下りまた40キロ歩く

父は、こんな辛い仕事は自分の代でお終いにしていいと考えています。公務員ですから、息子はどんな職業に就いてもいいと。でも息子は、父の仕事を引き継ぐことを希望しました。映画は、まだ夜が明けきらぬ早朝、はじめて仕事に出る息子に父がいろいろアドバイスを与えるところから始まります。
息子が歩き出そうとした時、旅のパートナーとなる犬「次男坊」が、父から離れず息子の後を追わないことから、父も同行することに。最後の山歩きです。

何キロ歩いても人と出会わないという、山間の壮大な風景。静かな時の流れ。
仕事のプロセスを知ってはいても、それがどんな仕事なのかを初めて体験する息子。預かっている郵便物をカラダを張って守り抜くこと、自分のカラダを気遣い歩きつづけること、辛くても愚痴を漏らさないことなど、一緒に歩きながらリアルに仕事を伝えていく父。
仕事のため、父はほとんど家を留守にしていました。だから父と息子はゆっくり一緒に過ごすことなど、これまでありませんでした。この引き継ぎの旅で、父と息子はお互い心にしまっていたキモチを溶きほぐし、距離を縮めていきます。

シンプルなストーリーでしょ。でも、ここには人生の中でもっともドラマチックな出来事が凝縮していたんです。父にとっては、現役引退のセレモニーでもあるわけです。照れくさいのか、立ち寄る山里の人々の感謝と残念がっている注目を、引き継ぐ息子に向けさせるんですよね。そしてこれまで父に代わって家と母を守ってきた息子が、家の外に出て父の仕事を理解することで、父親に対する認識を再構築していくんです。自分が愛されていなかったわけではないことも分かり、はじめて素直に「父さん」と呼べるようになったのです。
そして翌日は帰路となる2日目の夜。父がこれまで知らなかった家での生活に必要な情報を今度は息子が伝えます。
代が替わり、家族の絆が結び直されました。

僕ね、過去に何度か書いたんだけど、父と息子の話に弱いんですよ。
小さい頃はかなりカラダが弱くて、ちょっと変わり者の芸術系な息子だったから、父にとっては一緒にゴルフへ行けるような弟の方が望んでいた息子だったんだろうなぁ、って。なのに、息子という身分をいいことにわがままや苦労ばかりで、何も返してあげられないまま永遠の別れを迎えてしまいました。
後になってから、それでも気にかけてくれてたんだ、って分かることがいろいろあって、それがありがたくって。
この映画の中で、息子の様子をうれしそうに眺める父、息子に背負われて川を横切っている時に涙ぐむ父の顔を観ていると、思わず涙ぐんじゃいましたよ、僕。やばい。

これは誰しもが観たいと思う映画ではないかもしれません。でも多くの人が出会ってみたいと思っていた映画なのかもしれません。仕事の引き継ぎが必要な人、自分の仕事に迷いがある人、安らかな静かな映画を観てみたいと思っている人にはおすすめです。
(静かな映画だと寝ちゃう人には、ぐっすり眠れる映画でしょう…)

「山の郵便配達」
■1999年中国金鶏賞(中国アカデミー賞)2部門受賞
■1999年モントリオール映画祭観客賞受賞
■2000年インド国際映画祭銀孔賞(審査員大賞)受賞
[PR]

  by tzucca | 2006-01-22 01:03 | → MOVIE

<< 雪・ゆき 映画「バッド・エデュケーション」 >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE