中川信夫監督作品『地獄』

『亡霊怪猫屋敷』『東海道四谷怪談』『地獄』『怪異談・生きてゐる小平次』
で元祖ジャパニーズホラー映画監督として海外にもファンが多い中川信夫監督。
なかでも傑作と言われている『地獄』(1960年)は、今はなき新東宝の倒産寸前に制作された仇花的作品とされています。

光に満ちて白一色というイメージの天国より、地獄には闇の黒に炎や血の赤のカラーコントラストがあり、さらにいろんなステージも用意されていて、テーマパーク性がありますよね。仏教の地獄とキリスト教の地獄は、ステージやキャラに違いがあって、映像の題材としてはとても面白いと思うのですよ。
この映画は、前半で業が深い現世の人間ドラマを描き、後半彼らが墜ちた地獄を、シュールな映像で表現した、この世とあの世の地獄めぐりを楽しめます。

『地獄』という作品は、1960年に制作された中川信夫監督作品のあと、1979年に神代辰巳監督作品が70mmの大スクリーンで公開、そして1999年石井輝男監督がアンダーグラウンドに公開と、これまで3度映画化されています。内容はそれぞれ違うのですが、現世の業とあの世の地獄絵図という構成は同じ。神代監督作はダメ映画として誉れ高く、石井監督作はカルト性の強さが一部マニアの目を引きました。

「地獄」というモチーフの面白さと、これまで3度も映画化された中で、伝説となっている中川信夫監督版の『地獄』。ようやく観ました。

大学教授の娘と結婚の約束をした一見マジメな学生・四郎(天知茂)。四郎とその大学教授には、田村という悪魔の化身のような言動をする男がいつもつきまとっていた。ある夜、教授の家から帰る四郎を田村が車で送っていく途中、泥酔して飛び出してきたヤクザの男をひき殺してしまう。罪の意識に思い悩む四郎は、婚約者の幸子(三ツ矢歌子)に事件を告白し、自首する決意を固めた直後、幸子の乗ったタクシーが事故を起こし、幸子は帰らぬ人となってしまった。
ひき逃げしたことを「誰も目撃者がいない」と平然としている田村であったが、物影から被害者の母親が目撃していた。母親と被害者の恋人は復讐を誓う。
ナイトクラブで一人酒していた傷心の四郎に、店の女が言い寄り一夜を共にする。しかし、その女は被害者の恋人だった。
翌日、四郎は母の危篤を知らせる電報を手に帰省し、そこで幸子そっくりの若い娘(三ツ矢歌子:二役)に出会う。そして、被害者の母と女も居場所を突き止めその土地へ。さらに、悪魔のような田村も。

転げ落ちていく石のように災難が災難を呼び、次々と人物が死んでいく「あり得ない」展開。そして60分経過したところで登場人物全員が死亡。をいをい。
そして、地獄編へ…。

一番印象に残るのは、地獄のシーンより、現世を描く部分の1960年当時の東京。
場末な空気と妙にモダンな雰囲気。そこに登場する人物の極端さ。とくに悪魔そのもののような田村という男の存在がやりすぎなくらいエキセントリック。
奇抜なアングルのカメラワークも、歪んで亀裂の入った「あり得ない」現世の展開を緊張感あるものにしていました。
セリフまわしや画面づくりに、鈴木清順の「ツィゴイネルワイゼン」を思わせる部分があって、先に観ておくべきだった!
一見マジメで気の弱い学生の四郎が、婚約者・幸子をすでに孕ませていたことや、平気で店の女と一夜をともにしてしまう二面性が面白い。

で、お楽しみの地獄。
決して悪者でない登場人物さえも、業の深さや自殺、事故死から地獄に勢揃いして、永遠に終わることのない苦しみのサークルから逃れることはできないのであった。
閻魔大王はいるし、赤と青の鬼はいるし、血の池や灼熱地獄も登場。
カラダを引き延ばされたり、皮をはがされたり。
現世での業を何度もリプライズしたり。
ああ、まるで、お化け屋敷か蝋人形館を巡っているよう!

1960年といえば、世界に誇っていた東宝の特撮映画では「電送人間」「ガス人間第1号」、翌61年には名作「モスラ」(ザ・ピーナッツが出ている方ね)が作られた頃。ところが『地獄』の特撮は自主制作8ミリ映画のような稚拙さ。奇抜なカメラアングルやカット割り、シュールな展開の方が遙かにインパクト大。夢の中のような交錯する展開。叫ぶ口の中、目の超アップがコワイ。

幸子が孕んでいたことを知らなかった四郎は、地獄で自分の子が流されていくのをひたすら追っていく。そして巨大な車輪に乗った赤子を助けようと、車輪に乗ったまではよかったが、しがみついてカラダを動かすことができず叫ぶだけ。
本気で助けようと思うなら這ってでも動けるでしょ、とつっこみたくなるシーンなんだけど、延々とそのまんまなのよ。そして唐突に画面がフリーズ。
永遠に続く苦しみを時間を静止することで表現したのかな。

そして訪れる唐突なラスト。ええ?ここで終わっちゃうの?
日本のロジャー・コーマンとも言われる新東宝の社長・大蔵貢は、地獄と極楽を映像化すると思っていたらしいのですが、中川監督は出口のない地獄を執拗に描いたのでした。完成後、大蔵社長は中川監督をきつく叱ったそうです(^^;
でもこの『地獄』は、その後に名を遺す怪作となったのだから、やりたいようにやった中川監督の勝利でしたね。
日本映画が元気になってきた現在、大金を投じてダークサイドな監督に21世紀版『地獄』を作らせてみたらどうだろう。人間の業のカタチも変わってきているし。そうそう、10年おきに必ず制作されるシリーズにすればいいんじゃない?と思うのでありました。

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『地獄』中川信夫監督作品
1960年7月公開/新東宝/100分/シネマスコープ

DVD 2000年6月リリース
ハピネット・ピクチャーズ - ASIN: B00005G0EK
(オリジナル音声リマスター版)
¥5,949(税込)
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  by tzucca | 2005-11-06 21:57 | → MOVIE

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