映画「五線譜のラブレター De-Lovely」

音楽家コール・ポーターの名を知らなくても、彼の遺したスタンダード・ナンバーをどこかで耳にしている人は多いはず。コール・ポーターの半生を描くこの作品では、劇中でエルビス・コステロ、アラニス・モリセット、シェリル・クロウ、ナタリー・コールら、聴かせどころを心得たボーカリストたちが彼のナンバーを歌い上げます。
邦題が甘々メロドラマみたいですが、中身はちょっと違いますよ。

1920〜1940年代に活躍したコール・ポーター。彼は、後世に名を遺す天才アーティストに少なくない同性愛者でした。
パリ社交界の華であったリンダは、暴力を振るう夫と離婚して、男に懲りていた時にコールと出会います。リンダは、彼の才能と人柄に惹かれ、彼のセクシャリティを理解した上で結婚し、夫の成功を手際よく支えていきます。若い男の恋人がいる夫ではあったけれど、リンダは2人だけの信頼感と愛情にあふれた世界があるかぎり、その生活を寛容に受け止めていました。
活躍の場をニューヨークに移したコールは、まもなく高い名声を得て、ハリウッドでMGM映画の仕事をするようになります。
しかしハリウッドという独特な世界で、大成功に自惚れていたコールは、おおっぴらに夜な夜な男遊びをするようになり、リンダは傷心で一時パリに戻ってしまいます。
リンダがいない状態でのイケイケ生活は長く続きませんでした。コールが落馬事故で足を骨折。リンダは彼の元に戻り、足の切断を勧める医師に、断固として反対。生涯にわたって足の障害と戦うことになるコールを支えていきます。しかし彼女もまた肺が末期的な病に冒されているのでした。
コールが作る愛の歌のほとんどは、嘘偽りなく妻リンダに捧げたもの。妻の死後、彼は作曲活動をしていません。まさに、リンダは音楽のミューズだったんですね。

天才音楽家が生み出す音楽を、当時の登場人物も、映画の制作者も、すごくリスペクトしているのが分かります。しかし、彼が同性愛者であった事実を、避けずに容赦なく描いていることが、2004年の映画である証なんでしょうね。
「1つの性、1つの人間では満足できない」と言うコールですが、リンダという女性の圧倒的な存在感と彼女と過ごした時間が、いかに大切なものであったか映画から十分に伝わってきました。

<才能>に惚れる、ということは、実際僕にもあることです。
そこに強い信頼感が生まれたなら、絆とも言える愛情が生まれるのも分かります。
だけど、コールもリンダも裕福なんですよ。つまり、金を得るため仕事として音楽を作っているワケじゃないのね。すごく純粋な創作活動なんですよね。そこがフツーの庶民には実感しにくいところ(^^;
同性愛であることを悩むこともなく、才能のオーラでけっこうモテモテだったりするし、2人ともおしゃれで友人にも恵まれてたりして、セレヴであることの上に成り立っているような変化球の純愛なんですよね。
そこには決して卑屈という文字が似合わないんですよ。リンダに先立たれ、片足を切断して、周囲の人たちを遠ざけて1人ピアノに向かう死の直前まで、孤独感さえなかったのかもしれません。
そういう人生から、あの洗練された小粋なナンバーは生まれてきたんですね…。


この映画、残念ながら、いまひとつ成功作とは言えません。
これだけ魅力的な題材と音楽、コール役のケビン・クラインの素晴らしい演技があったとしても。
それは、構成のせいなのかも。死期の近いコールが、自分の半生を描く舞台のリハーサルを観ながら、回想していくという構成。この手法をとれば、時の経過やエピソードのつながりを、無駄なくジャンプしてまとめることができるのですが、主観的なストーリーにちゃちゃを入れるような客観性が邪魔です。うまくやれば「アマデウス」のように効果的ですが、この作品の場合<舞台>という設定が余計に思えます。
だから、おすすめ!の映画には届かないんだけど、サントラは最高!です。
一流ミュージシャンによる、コール・ポーターの名曲をゼヒお楽しみください。

【余談】
僕が小学校5〜6年の頃、TBSラジオで週一オンエアされる淀川長治氏の映画トーク番組を夢中で聴いていました。そこで、MGMミュージカルの名場面を集めた「ザッツ・エンタテインメント」を夢中で語る淀長さんの影響で、往年のMGMミュージカル映画の音楽を聴きまくってました。今から思えば生意気なガキですね(笑)
なので、この作品で使われているコール・ポーターのナンバーも2曲程を除いて、全部耳に馴染んだものでした。「エニシング・ゴーズ」「ビギン・ザ・ビギン」「夜も昼も」「ソー・イン・ラヴ」は、とくに好きだったので嬉しかったなー。

(2005.1.3 シャンテ シネ1)


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  by tzucca | 2005-01-03 23:55 | → MOVIE

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