映画「ハウルの動く城」

これほど映画の中に入り込めて、涙を誘う展開でもないのに画面に涙しちゃった宮崎アニメは、はじめてでしたよ。感動!というか、不意をつかれてすばらしい瞬間に出会えた喜びって涙ですね。素晴らしいの一言です。

自分の属する世界とかけ離れたヨーロッパを舞台にしたファンタジーの世界なのに、人物のキモチや行動がすごくリアルに感じたんですよね。
「もののけ姫」では、メッセージを伝えるための状況説明を盛り込みすぎたために、
ストーリーの多軸さが重くのしかかる作品になっていた気がします。
今回は「魔女の宅急便」に近い、主人公ソフィーの目線が届く範囲の描写に徹した描き方。彼女の生きる世界では、戦争が起きていて、普通に魔法使いが存在しています。「ハウルの動く城」が特別なのは、設定上では詳細に決まっていたであろう舞台の世界観を、見事にスッパリと、今現在のソフィーとハウル、その2人に直接かかわってくるキャラクターたちに絞り込んでストーリーが描かれていること。ファンタジーの要ともいえる設定世界の奥行き感がなくなってしまいそうですが、1つの魔法が映画の可能性を大きく広げました。

18歳の娘が、荒地の魔女にかけられた呪いによって90歳のおばあちゃんになってしまうこと。カラダは90歳でも心は18歳という単純な描写じゃない、人がある年齢によって得られるキモチのありようやあきらめ、また人生が大きく前に進んでいく時の高揚感が、すごい幅を持ってソフィーという1人の女性の中に描き込まれているんですよ。世界観の奥行よりも、人生という奥行の描き込み。これって、実写でできない、アニメーションだからこそできる表現ですよね。
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ソフィーの変化は、歳を重ねてきて分かることなのかもしれません。肉体は衰えても、心の年齢はそう変わるものではないこと。けれど、歳とともに捨てるものが少なくなってきて、心の振れ幅がどんどん狭くなっていくこと。
洗濯物を干しながら、椅子に座って湖をみているソフィーの後姿。それは、90歳のおばあちゃんの姿。ハウルと一緒にいて高揚している時の18歳の娘の姿。三つ編みを愛らしい火の悪魔カルシファーに捧げた後は、宮崎アニメでお馴染みの凛々しい目を持ち、自分の人生を自分の手で作っていこうとする若い女性キャラの姿。
言葉では語れない、感覚的なキモチのあり方が、見事に画面で表現されているんです。声を当てた倍賞千恵子さんの声の変化も素晴らしい。冒頭の娘の時の声に違和感があるって感想の人も多いのですが、その後の声の変化を聴くと、若くして自分の人生を諦めちゃってる老婆のような娘だったからなのか…と思い返せます。単純な声質の若さを出すためなら、デジタルでいくらでも処理できるのに、そうしなかったワケがあるんですよ。

ハウルはいかにもな美形キャラですが、髪の色を間違って染めてしまい、思い切り凹んでカラダがドロドロになっちゃうような、情けないとこもあるヤツ。
外に見せている姿と、家の中での「素」にギャップがあるのってのは、リアルだよね。外で戦っていることを、家庭に持ち込まないのも、家の主らしいし。
強大な力を持っているのに、それを自分のためにしか使おうとしない、ってのが魔法の師匠であるサリマンのハウルに対する評価。その力をサリマンのように権力と融合させて支配の道具として使うことを拒んだ結果が、結局は自分の自由を守るためだけに力を使うことになったんじゃないかな、ってのが僕の感じ方。
ちなみに、公開前にさんざん話題になったキムタクの声ですが、決してヘタじゃないし、ハウルというキャラクターに命を吹き込むのにこの人以外じゃ説得力ないかも、と思うキャスティングだと思いました。抑揚のないしゃべり方もぴったりですよね。だって、彼に心が戻るのは最後の最後なんだから。

キャスティングでいえば、宮崎監督が絵コンテをきる段階から決めていたという、荒地の魔女=美輪明宏は、さすがにハマりまくってました。
宮殿の長い石階段を重いカラダでぜぇぜぇで登る件は、哀れなんだけど爆笑。
あああ、お顔が、化粧が、ぐちゃぐちゃ。絵じゃなかったらホラーです(笑)
先に登り切ったソフィーばあさんに声をかける、執事みたいな人の手もおかしくて、このシーンはすごくお気に入り。
ところでこの人は、ハウルが優しく接した娘に、いちいち呪いをかけて回ってたんですかね。執着の仕方をみると、それもアリなんでしょうね。

にしても、これほど魅力的なキャラクターの数々、イメージの広がりはさすがな宮崎印です。カシルファーは、一緒に住んでもいいって思えるくらい気に入ったし、一番だったのは荒地の魔女の従者。動き方も含めてイイ感じでした。(さっそくフィギュアを注文しちゃった)

画面のクオリティは、当たり前のように文句のつけようがありません。
風景の美しさに思わず涙してしまったし、構図のうまさには拝んでしまいます。
戦争の描き方については、相当気を遣っていると感じました。イラク戦争の最中に制作した作品ですからね。空爆シーンでは、爆発で破壊される家を外からだけでなく内部からも描いていることで、隣で観ていた小さな男の子が怖がってたもん。
〈動く城〉は、もっとCGっぽいのかなーと思っていたけど、「ナウシカ」の王蟲みたいでした。位置づけも近いかな。王蟲が腐海の象徴だったように、動く城は定住している一般人とは違う家族のHOMEの象徴って感じかな。

ひとつ、どうよ?という部分を強いて言えば、カカシの正体が「をいをい」ってところでしょうか。

「ハウルの動く城」がすごくハマった理由を考えると、いろんなものが集まってる居心地のいい場所、HOMEのあり方ってのが、自分の家族と近いからなんだろうな。
朝遅く出ていって夜遅く帰ってくるだんなと、やたら動植物に好かれるゆいと、3匹の猫との生活(その他、いろんな空想上のキャラが2人にはいるんだ)。
そして、このお話って、人と人との信頼感を描かせたらピカ一の成田美名子「エイリアン通り」なんじゃないかと思ったわけ。
どんな時代や世界を舞台にしていても、つまりはそういうことが、大切ってことだよね。

@僕がこれほどハマったこの作品ですが、感覚的な部分も多いせいか、エンドロールが終わって退場しながら「よくわかんない」と口にしている人も多かった。
どこかでこの作品は「右脳で観る映画」と紹介されていたらしいのですが、まさにその通りですね。友だちだったら、いろんな感想持つのも当然だよなーで済みますが、もし一緒に観に行った彼氏、彼女といいも悪いも同じ感想を持てなかったら、長く一緒に生きていくのに感覚のギャップがキツくなってくるかも(^^;

(2004.11.28 ヴァージンシネマズTOHO 六本木:スクリーン7)


「2004.12.12 追記」

今日、「ハウルの動く城」をまた観てきました。日比谷のスカラ座1は、DLPでの上映で、画も音も最高でした。とくに背景画の鮮明さには息をのむほど!
そして、1度の鑑賞でどれほど多くのことを見落としていたかが分かって、自分に驚くと同時に、作品の素晴らしさにあらためて深い感動を味わいました。
あれこれ自分なりの解釈を広げましたが、なーんだ、映画の中にちゃんと描かれてるじゃん!自分なりのイメージを膨らませていたからこそ、その差異を細かく観ていくことができたのかなぁ、とも思いましたが。

というわけで、12/1に追記した終盤におけるソフィーの心情については、かなり自分勝手な解釈が含まれていたことが分かったので、これから観る方を混乱させないように本日をもってカットしました。コメントいただいたみなさま、すみません(^^;
カットしたテキストは、自分のHDDの中にデータで保存しておきます(笑)

ぜひ、2回観てください。かなり物語と世界の構造が分かってくると思いますよ。
できればDLPでご覧になることもおすすめします。

@あらためて倍賞さんと美輪さまの演技のうまさに打ちのめされました。
@ソフィーが元住んでいた家に越してきて、かつての作業部屋に入っていく時、年齢がものすごく細かく変化しているのが分かりました。ここでのソフィーの心情を語ろうと思ったら、秒単位で絵を追わないと…。


僕のレビューでは、人物に寄った内容で、言葉で説明しないにしても画にするために必要となる緻密な世界構築については触れませんでした。
一番重要な「城」についての考察。魔法の動力で動きながら、あの装甲が必要であることなど、FumiyaさんのBLOG記事が丁寧に分析していて、読み応えがあります!

またいろんなBLOGをめぐる中、bamboohouse:『ハウルの動く城』自分流ハッピー解釈が、相当に映像の読解力のある方のとってもすてきな内容でした。ぜひぜひ読んでみてください。

『ハウルの動く城』自分流ハッピー解釈
続・『ハウルの動く城』自分流ハッピー解釈
『ハウルの動く城』自分流ハッピー解釈・その3
『ハウルの動く城』自分流ハッピー解釈・その4
『ハウルの動く城』自分流ハッピー解釈・その5



「ハウルの動く城」公式サイト
◆制作に特別協力している読売新聞社のヨミウリオンラインでは、「ハウルの動く城」関連のニュースをまとめて読むことができます。
◆原作:魔法使いハウルと火の悪魔 ¥1,680
日本では児童文学とされているけれど、ヤングアダルト文学。この原作がどう宮崎色に染まったかも興味ありますね。宮崎版ではサラッと描かれた部分の秘密も。
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  by tzucca | 2004-11-29 01:57 | → MOVIE

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