映画「ヨーロッパ」

a0028078_4143424.jpg夜行列車のライトで照らし出される、流れ去っていく線路。
すぐ耳元でささやくように、男の声が重なる。
「私の声を聞きなさい。ヨーロッパの奥深く、あなたを連れて行こう。…1から10まで数えます。10数えたら、あなたはヨーロッパにいる」
たどり着いたヨーロッパは、第二次世界大戦直後1945年のドイツ・フランクフルト。

催眠術によってストーリーをナビゲーションするなんて、それだけでも幻惑的な映画なんだけど、ドイツ表現主義をベースにした凝りまくった映像によって、一時現実を忘れる映画体験ができる作品です(ただし前半は暗い画面が多いので、テレビ画面よりもスクリーンで観るべき作品かと)
娯楽作品とは呼べないかもしれないけど、映画表現の面白さと完成度から、僕の好きな映画ランキングではかなり上位。

とにかく映像の完成度がすごい。
人物の背景が、心にひっかかった言葉の文字になったり、電話で話している相手の顔になったり、別の場所に移りかわったり。萩尾望都のマンガで、心の内面や世界観をいっぺんに表現する合成画面のようなページがよく出てくるんですが、まさにあんな感じなんですよ。ただし、暗いモノクロ画面でシュールなイメージを形成しているのですが。そのモノクロ画面の中に、浴槽から溢れ出た血の赤が流れこんでくるインパクト!まさに催眠術で経験するであろう、浮遊した主観的な世界。

a0028078_3274190.jpg催眠術は、映画を観ている「あなた」に向けて語りかけてきますが、その「あなた」に変わって映画の中に登場するのが、「グランブルー」でジャックを演じたジャン・マルク・バール(この映画では全然カッコよくない)。敗戦直後のドイツに、アメリカから"ささやかな親切をしめすため"にやって来たレオナルド・ケスラーという男が、バーチャルな「あなた」となります。
ケスラーは、一等寝台車の車掌の職を得て、よく分からないまま乗車勤務につきます。
そのケスラーの前に「美女」が現れる。彼女は、鉄道会社ツェントローパ社長の娘カタリナで、敗戦敵国にやってきたアメリカ青年に興味をもって近づいてきました。夕食に招かれた彼は、そこで米軍情報部のハリス大佐と出会い、ドイツ側の諜報活動を依頼されます。
敗戦と混乱、占領米軍と反米組織「人狼」、今観るとまるでイラクの現状を比喩しているかのような状況。
カタリナは、元「人狼」であることをケスラーにカミングアウトし、やがて2人は恋に落ちる。だが「人狼」メンバーが彼女を埒して、ケスラーに列車を爆破する計画の実行を言い渡されるのですが…。

ただ漂っているだけのケスラーが、濃ゆいキャラクターに囲まれて重大な任務を負うことになるのは、バーチャル・ゲームのよう。
合間合間に催眠術のナビゲーションが入るのですが、それは決して観客とイコールではなくなっていくんです。観客は、だんだんと強引にこの世界につなぎ止められていく窮屈感を味わいます。
そして、「10数えたら、あなたは死ぬ」というナレーション。自分のことじゃないと分かっていても、脱出できないケスラーのもがきとともに心臓がドキドキ。
でも決して解放してはくれない。術を解いてはくれない。いつまでもヨーロッパの幻影につなぎとめられたままとなるのです。

この映画を作ったのは、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のラース・フォン・トリアー。初期となる劇場用長編3本目の作品です。
「ヨーロッパ」が1991年カンヌ映画祭に出品された時、その完成度の高さから、トリアー監督自身相当に自信があったのでしょう。最高賞であるパルム・ドールが、コーエン兄弟の「バートン・フィンク」に与えられた時、受賞していた審査員賞とフランス映画高等技術委員会賞の楯をステージに叩きつけちゃったらしい(^^;

緻密な映像設計による作り込んだ画面を特長としたトリアー監督は、以降、実験的な精神はそのままに映像スタイルがガラッと変わりました。
大病院を舞台に風変わりな人間模様とホラーを合体させたTVシリーズ「キングダム」で、現場の照明をそのまま使い、手持ちカメラによるラフな撮影を、編集でリズムをつける独特な手法を確立。
やがて、描く世界のリアル感をモットーとする「ドグマ」という映画制作手法の誓いを宣言し、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」「ドッグヴィル」など救いのない映画を次々と発表していくのでした。
映画作家としては、新作への期待と注目を浴びる人ですが、知り合いにはなりたくないかもです(苦笑)

「ヨーロッパ」EUROPA
監督:ラース・フォン・トリアー 
制作国:デンマーク/フランス/ドイツ/スウェーデン
上映時間114分・公開1992年10月
DVD info.amazon TSUTAYAicon

◆記事の中で触れた「ドイツ表現主義」を代表する映画といえば、『カリガリ博士』と『吸血鬼ノスフェラトゥ』。それらの作品解説とゴシックロックの関係を、分かりやすく語った記事がネット上にありました→「怪奇映画とゴシックロックの親和性」
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  by tzucca | 2004-10-24 03:09 | → MOVIE

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